[使える!!]『自衛隊の仕事術』久保光俊ほか

社会科学
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久保光俊,松尾喬『自衛隊の仕事術』要約

自衛隊の仕事術は,(1)ミスの最小化,(2)仕事のスピードアップ化,(3)コストダウン化と安全化,(4)もっとラクに・楽しくできないかの工夫,の4つを原則としている。自衛隊が,有事の際も使命を果たすことのできる組織なのは,この合理的な仕事術による。

元自衛隊教官の仕事術が合理的・具体的かつ男前

仕事では「正しく・早く・安価に・楽(ラク)に」を心がける

自衛隊の仕事術では,「正早安楽」というルールが常に念頭に置かれている。

「正」とはミスをより少なく,「早」とはより早く,「安」とはより安く,安心した状態で,「楽」とはよりラクに,楽しく,仕事すること。(p.30)

「正早安楽」を達成するために,自衛隊ではどのような仕組みが作られているのだろうか。ほんの一部だけ,ご紹介しよう。

「正しく」―細部のルールがミスを少なくしてくれる

まず,指示を出すときは「一時に一事」の原則を守る。一つ一つを区切って指示を出すのだ。

自衛隊の訓練では本物の爆薬を使うこともある。このような危険度の高い訓練は「一令一動」で行われる。つまり,1つの命令で1つの動きをさせ,その動きが終わらないと次の指示は出さない。

仕事でも,1度にあれもこれも言ってしまうと聞き漏れや混乱が生じてしまい,期待した成果が得られない。特に,失敗できないことや未熟な者に対しては,1回に言うことは1つに限ることだ。

連絡ミスを防ぎ,正しく情報を伝えられるようにするための仕組みもある。

自衛隊では,送信文が多くて相手に筆記させる必要があるときは,送信側は「伝あり,筆記用意」と言い,受信側に筆記の準備をさせてから伝達をする。情報の送り手は,受け手に心とモノの準備をさせることが,正確な情報伝達をするために必要な条件だ。

普通の企業で「伝あり,筆記用意」などと言うことはない(笑)。だが,「連絡事項が多いのでメモの用意をお願いします」という一言があれば,言った言わないのトラブルの多くは避けられるのではないだろうか。

記憶を過信せずメモ帳を携帯させるという風土づくりも,連絡ミスを少なくするために有効な手段となる。

この他にも,書類では「昨日,明日」などではなく「○月○日」と日付を明記する(p.195)など,「正」を達成するための様々なルールが紹介されていた。

「早く」―有事の際に素早く対処できるように備える

何かあった時に即応するために,自衛隊では「5S」と「3定」が徹底されている。「5S」とは「整理,整頓,清掃,清潔,躾」のこと,「3定」とは「定位,定品,定量」のことである。

何ともリズムがよく,すぐに覚えられそうだ。自衛隊のカッコよさがにじみ出ている気がする。それはさておき,「5S」と「3定」は仕事の場面ではもちろん,プライベートにも応用できるルールだ。

こ こぞという時に,プリンターの紙やインクが切れていて大慌てしてしまったという経験は,誰にでもあるのではないだろうか。定位(プリンターを置く棚の中 に),定品(予備の紙とインクを),定量(1パックずつ置いておく)という仕組みを作ればこのような事態は避けられる。このルールは,調味料やトイレット ペーパーなどにも応用できそうだ。

決められたことを決められたようにできるまでする。これで組織の文化の基礎固めができる。(p.52-53)

「楽(ラク)に」―人間の集中と緊張には限界がある

意外なことに,自衛隊の仕事術には「楽(ラク)に」仕事をすることも含まれている。

仕事の手順と要点をわきまえていれば,「手抜き」ができるようになり,「楽」ができるようになる。(p.36)

よく言う,「仕組みを作って自動化する」というものだろう。「注意しろ」「目配り気配りを絶やすな」などの心がけ論では,いつまでたっても新人は成長しない。業務の質とスピードを向上させたければ,仕事の手順と要点を教えることだ。

「正」は「必成目標」,「早安楽」は「望成目標」

「正早安楽」の原則で最も重要なのは「正」である。

「必成目標」とは最低限これだけはやり遂げたいという最小目標,「望成目標」とはあわよくばここまでなし遂げたいという最大目標のことだ。(p.58)

自衛隊はひたすら「努力しろ,頑張れ」と言ってそうなイメージ(偏っていて恐縮です)だが,本書では目標を達成するためのコツも紹介されていた。

目標達成のコツ:小さい勝ちグセを積み重ねていく

自 衛隊の仕事術には,目標達成のためのコツもある。物事は,小さいところから始めるということだ。仕事を始める時には,2~3分で片付く小さなこと からにする。小さな仕事を達成するという「勝ち」を積み重ねていけば,体も心も準備が整い,やる気のスイッチが入る

はじめから欲張って全体的な成功を求めるのではなく,戦略的に的を絞ってエネルギーを集中させたほうが成功の確率も高く,損害も小さいということを述べている。(p.67)

また,身近に目標や「なりたい人」を見つけるのもいい。歴史上の人物や遠い人などではなく,目に見える人を目標にし,その人たちを次々とクリアしていくほうが目標に近づける実効性が高い。

「勝ちグセ」がつくと自信もついてきて,より高い目標に挑戦できるようになる。

感想: さすが元自衛隊教官と思わせる一冊

★★★★★

とにかく本書を読んでみてほしい。そもそもこの本の書かれ方が合理的で,まさに「正早安楽」の原則を身をもって知ることができるからだ。

自衛隊は何かあれば,日本の軍隊として一枚岩にならなければならない。まさに「日本最強の組織」である必要があるのだ。単に「上官の命令には絶対服従」だけのルールでは,やっていけない。

だからこそ,自衛隊の仕事術には何か秘訣があるに違いない,と思い本書を手に取った。大当たりだった。

部下への声かけのセリフが男前すぎる

個人的には,「部下に声をかけるときの心得」がツボだった。

【報告を受けるとき】

×こう言わないようにしている 「忙しいんで後にしてくれ」「そんなの言われなくてもわかってる」 (中略)

○こう言うようにしている 「そうか,なるほど」「そうだね」 「ちょっと待って。こういうことなんだね」「ほほう」 (後略)(p.27)

よく「部下への声かけに気を配る」みたいな曖昧な文言で終わってしまいそうな話を,ここまで具体的な「心得」として持っているというのが,カッコ良すぎる。「ほほう」まで入っているぞ。こんな声かけをしてくれる上司がいたら,惚れ込んでしまいそうだ。

自衛隊流,最強の「箇条書き文書」を見た

本書では「見る者に混乱をなくす箇条書きのススメ」という項目もあった。自衛隊では,重要なものから優先的に書いた箇条書き文書が多いそうだ。実際にその書式に従って作られた資料が各章末に載っているのだが,それが秀逸。

箇条書きは,ともすると「羅列書き」になってしまいがちだ。本書では,箇条書きのお手本となるような文書のサンプルを見ることができる。これも本書の魅力の一つである。ぜひ,手にとって読んでみて欲しい。

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