子ども一人ひとりは個性のある存在だが,「子どもの発達」にはある程度のパターンがある。そのパターンについて研究する学問分野が「発達心理学」だ。
発達心理学の研究を見てみると,「こうすればこのように育つ」というパターンがある程度見えてくる。今回は,発達心理学の研究から得られる子育てのヒントを見てみよう。
発達心理学の研究が保証する子育てのアドバイス3つ
(1) 感情を言葉にする: 他人を思いやる人に育てるために
心を理解するための足場をつくるのは,養育者が子どもの心を気遣うことである。具体的に言うと,子どもを明確な心を持った存在とみなし,心的な観点から子どもの行動を解釈し,また心的状態に関する言葉を会話の中に多く使う,ということである。
特に,子どもの心的状態を気遣う言葉がけが多いほど,子どもは感情を理解できるようになる。感情の理解は言語能力に依存しているからだ。
(2) 的確な応答と一貫した行動: 親に愛着を持たせるために
親に対して安定した愛着を持つ子どもは,困った状況に陥った時に,親から慰められることによって安心感を得ることができる。そのような子どもは,泣いたり混乱したりしても簡単になだめられる(←コレめちゃ重要)し,見知らぬ他者からの慰めを受け入れやすい。
そのような子どもの親は,(1)子どもの要求に対してタイミングよく応答し,(2)その行動は一貫している。そのため,子どもは親の行動を予測しやすくなり,親に対して強い信頼感を持つことができる。
(3) 肯定的になる: 感情をコントロールできるようになるために
親の過干渉,体罰,否定的な感情を受けて育った子どもは,行動や感情をコントロールできなくなる。逆に,母親の養育態度が肯定的・支持的であると,子どもの感情コントロール能力は高まる。
「肯定的・支持的な養育態度」とは具体的にどのようなものか。本書には書かれていなかったので,引用文献を調べたところ,思いやり,承認,肯定的な感情コントロールの指導,帰納的な理由付け,関わりあうこと,だそうだ。
発達心理学に言わせる「子育て」とは×2つ
(4) 子育ては大人を成長させる
子育てがうまくいかず,気持ちが不安定になってしまうのはあなただけではない。ごく自然なことだ。
研究からは,母親になることが心理的に不安定・不適応な状態をもたらすことが分かっている。具体的には,行動や感情調整が困難になる,依存的になる,自己評価が低下する,などの状態である。
しかし,これらの不安定な状態は一時的であり,子育てという営みは持続的で積極的な意味を持つ。例えば,親になることで,柔軟性が増す,視野が広がる,自己抑制や自己が強まるといった変化が見られる。
(5)「子どもの可能性」について: 何かを得るというのは何かを捨てるということ
子どもに何かをやらせたり教えたりするときに,ふと「自分のやっていることは子どもの可能性や創造性を狭めているのではないか」と思ったことのある人は多いのではないだろうか。
そのような不安に,本書は次のように答えてくれる。
生涯にわたる発達という視点に立つと,発達とは,何かを得て同時に何かを失う過程である(p.13)
つまり,何かができるようになるというのは,他のことをやりにくくなるということである。
このことは,母語の学習と外国語の学習の難しさの違いを考えればイメージがつくだろう。また,これは本書には書いていない例だが,右手でものを書けるようになるというのは,同時に,左手で書くことができなくなっていくことを意味する。
そう考えると結局のところ,「発達」というのは何を選ぶかという「選択」の問題のように思える。
喪失なしに獲得はなく,獲得なしに喪失はない(p.10)
これは,悩める養育者を慰めるために生まれた哲学的な格言ではない。発達心理学の科学的研究から明らかになっていることである。
感想: 発達心理学の入門として最適な教科書
★★★★☆
本書は全15章からなっている。各章は15ページ程度と短くまとめられており,「つまみ食い」「斜め読み」がしやすい。さらに,各章のタイトル・サブタイトルがその章の要約となっており,キーワードも書かれている。まさにいたれりつくせりだ。
本記事では,子育てという観点からこの本をご紹介したが,それ以外にも発達心理学の様々な研究結果が紹介されている。
難易度としては,「まえがき」に「学部レベルのテキスト」と書かれてあるとおり,発達心理学の知識が全くない人でも理解できるようになっている。もちろん,さらに勉強したい人のためにも,参考文献は充実している。
教科書的な本にに星5つをつけるのは癪なので星4つにさせていただいたが,読みやすく分かりやすい,優れた発達心理学の教科書だ。
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