要約『大学生に語る資本主義の200年』(的場昭弘)
資本家の利潤を低下させないために世界へ広がっていくが,資本主義社会の本質だ。しかしそれによって,資本主義社会の内外に格差や対立,不正義などのゆがみが大きくなっている。今後あるべき資本主義社会のあり方について,再考すべき時である。
目次と各章要約『資本主義の200年』(的場昭弘)
本書は6章から構成されている。各章のタイトルと要約は以下のとおりだ。
- 1章 グローバリゼーションと資本主義社会
- グローバリゼーションが進むとともに資本主義は拡大し,同時に所得格差も世界レベルで広がる。
- 2章 多様化する世界
- 「民主主義と人権」という大義名分のもとに拡大しようとする資本主義は,世界の多様な伝統文化と対立している。
- 3章 民主主義と個人主義
- 資本主義社会で語られる民主主義は,キリスト教の神概念を前提とし,共同体から切りはなされた個人によって成り立っている。個の分断は,政治的平等の下での経済的不平等を正当化する。
- 4章 資本家と労働者
- 資本主義は,労働者よりも資本家のほうが儲かるシステムとなっている。利潤を下げないために,資本家は労働者の賃金を下げざるをえない。
- 5章 社会主義は終わったか
- 労働者の賃金低下を止めるためには労働者が団結して闘うべきだ,というのが社会主義の理想だった。だが,ソ連の失敗と労働組合の形骸化によって,社会主義は崩壊の一途を辿る。
- 6章 教育という再生産
- 資本主義を拡大するために,教育は有能な労働者かつ消費者となる人材を大量生産する。
世界史を資本主義という視点から読み解く
本書は,19-20世紀の世界史を,資本主義の拡大という切り口で解説していく本だ。それも編年的に追っていくのではなく,テーマごとに説明をしていくスタイルをとっている。
この本は,次のような疑問をカバーしている。
- なぜ非正規雇用が増えたのか
- なぜ日本で集団自衛権をめぐる議論が巻き起こったのか(集団自衛権はなぜ必要?)
- なぜアメリカ大統領予備選挙で,過激な発言をする候補者が人気を博するのか
- なぜカンニングはだめなのか(ネットで何でも知れる時代なのに!!)
- なぜ中国や北朝鮮は「強硬な姿勢」をとり続ける(ように見える)のか
このリストを見てワクワクしてしまった方は,ぜひとも本書を手に取ってみてほしい。
感想・レビュー『大学生に語る資本主義の200年』
★★★★☆
資本主義というムズかしそうなテーマをかみ砕いてくれる
おカタい本だろうなぁと思って身構えて読み始めたが,全くそんなことはなく,すらすら読めてしまった。読みやすさの理由は,いくつかある。
- 専門用語が少ない
- 読者の記憶に新しいできごと・ニュースをふんだんに扱いながら具体的に説明している
- とにかくかみ砕いて説明している
3つ目「かみ砕いて」という点において,秀逸と思った一節。第2次大戦後の流れを説明している部分だ。
「ドイツはナチズムを生んだ。日本は軍国主義を生んだ。そして,ともに過去を清算し,西洋化することによって,大きな経済的繁栄,文化的進歩を得た。ところが,ロシアと中国は,長い皇帝の歴史を終えたかと思いきや,社会主義とは名ばかりの独裁政権を歩もうとしている。つまり,西欧をのぞいた,世界のほとんどの国が,王権による専制君主かファシズムしか生みだしていない。わずか2億人ほどの西欧の人たちだけが,将来に残る崇高な文明をきずいた。あとは人類にとってマイナスとなる文化と社会しか生みだしてこなかった。今後も私たちが先頭に立って,世界を文明化していかなくてはならない」(p.101)
最後の一文「私たち」には自分も入っていると思い当たったときのゾクゾク感がハンパない。
本書は今ご紹介した引用文のように,「」を使ってぶっちゃけている箇所が数多くある。それがまた痛烈なのだ。これも本書の魅力の1つといえよう。
星4つにした理由
星を1つ減らした理由は,説明が乱暴だ(ザックリすぎる)と感じる部分がちらほらあったからだ。
また,疑問を持つ箇所があったとしても,著者が何を根拠にそう言っているのかという参考文献が示されていなかった。「大学生に語る」のであれば,各章末にでも参考文献の1つや2つはほしい所だ。
ただ,説明の荒さはこの本の主旨「特定の視点から歴史を説明しよう」という考え方に付きまとうもので,仕方ないのかものれない。あとは,意志のないものが意志を持っているかのような書き方も気になるところだが,大学講義のまとめというスタイルの,しかも新書なので,ご愛嬌ということで。
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